CBTC[7]  CBTCの標準化(共通仕様化)

CBTCに関わる仕事をしていると、必ずと言っていいほど数年に一度、日本でCBTCの共通仕様を作りたいという話に出くわします。しかしながら、未だに実現しません。その理由の一つとして、共通化するとコスト競争になり、メーカーがあまり利益を得られない可能性があることが挙げられます。また、海外のメーカーが日本に進出し、事業者が現在の品質を維持できなくなるという懸念も影響しているかもしれません。一方で、メーカーは標準仕様を採用することで開発費用を抑え、効率的な開発と営業ができるという利点もあります。また、事業者側にはコスト削減のメリットがあり、複数のメーカーから選択肢を持つことが可能になる利点もあります。

多くの業界では、まず先駆者が独自の仕様を策定し、その後に仕様が乱立してから、共通仕様を作成するプロセスを踏むことが一般的です。一般的な機器においては、顧客は主に一般消費者であり、BtoC(事業者から消費者へのビジネス)が主流です。これは当然のことかもしれません。BtoB(事業者間のビジネス)の業界よりも共通仕様のメリットが双方にあるためです。

こうした理由から、本当にBtoB(事業者間のビジネス)であるCBTCの共通仕様を実現できるのか疑問ですが、世界を見渡すと、IEEE 1474やIEC 62290のように共通化を推進する取り組みが古くから存在しています。IEEE 1474は旧アルカテルのCBTC仕様を基にしており、IEC 62290はパリ地下鉄の仕様を基にしています。これらの規格はCBTC規格の代表的なものであり、多くのCBTCプロジェクトの要求仕様書に含まれることもあります。しかし、これらの規格を要求仕様書に書いても、実際の顧客要求がまったく同じ仕様を求めているわけではありません。これはまた別の機会に詳しく説明したいと思います。

それでは、もしメーカーや事業者が希望すれば、日本国内や他の地域、あるいは世界全体で共通のCBTC仕様を策定できる可能性はあるでしょうか? 私の意見としては、条件付きでYESと言えるかもしれません。その条件は、カスタマイズが一定程度制約されることです。標準化は元々、カスタマイズを最小限に抑えるか、あっても特定の条件下に制限されるものであり、これはCBTCに限らない普遍的な特徴だと言えます。

CBTCシステムは信号だけでなく多くの機能を含んでおり、USBの標準化とは異なる次元の課題です。また、CBTCの特徴として、地上-車上間の通信など特有の機能も持っています。共通化された機能であっても、異なるハードウェアを使用する場合は共通化とは言えないでしょう。同じ機能であっても機能の分割が異なればこれも共通化ではありません。

ここで私の共通化のイメージを少し述べておくと、直通運転が可能なように要件を共通化するのは最低限必須です。また、装置が故障した場合は他のメーカーの装置に交換できることのような装置単位毎の共通性は必要だと考えています。一部の人は、ユニット単位での交換を要求するかもしれませんが、私は実現が難しいと思います。ただし、無線アクセスポイントやアンテナなどの一部の機器においては、装置単位での交換が可能なケースもあると思います。

CBTCの地上-車上間通信はその内容が重要であり、通信手段は基本的に問題ないと多くの人が考えています。ただし、無線通信にはさまざまな視点で考える必要があります。確かに通信方式に関係ない共通仕様が可能かもしれませんが、いまそれが最善の選択肢であるかどうかはCBTCに特化して考える際に疑問が残ります。現在の主流であるWiFiをLTEや5Gに置き換えることは理論的には可能かもしれませんが、日本国内でCBTC用に必要な無線通信の免許が広まるかどうかは疑問です。私の見解としては、この点では否定的です。私がCBTCの開発を始めた30年以上前に、電波の利用許可を得るために数年を要しました。鉄道は国土交通省の管轄であり、電波は総務省が担当しています。当時の担当者との議論を通じて、日本ではそのような電波の使用方法は難しいだろうとの印象を私は受けました。将来的にはありうるあるかもしれませんが、現状では日本国内でそのような電波利用は難しいと考えています。このような点からも、CBTCの地上-車上間通信はWiFiが適切な選択肢であると考えています。WiFiと決めるだけでも共通仕様の30%ほどは決まったとも言えるでしょう。しかし、日本国内では今のとこと、標準のWiFiを用いたCBTCの導入計画を私は知りません。残念ですが、これは日本のCBTCの普及には良いこととは思えません。

ちなみに、WiFi(IEEE 802.11x)はプロトコルを定義しており、物理的な無線通信の規格(ARIB-33、ARIB-66)の上に成り立っています。従って、WiFiを採用する場合、これらの規格も同時に適用されることになります。これにより、アプリケーション層の規格を策定する段階に移行できます。ただし、具体的な通信内容を決定する段階は、システム全体の規格を先に策定する必要があります。

では、どのようなプロセスで標準化をすればいいのでしょう。一番いいのは上記に書いたように、ある製品をベースに考えることです。そのとき重要なのは先駆者は隠さず、仕様を公開することです。ここで欲を出すと標準化はうまくいきません。

この製品に対して、ユーザー(事業者)の共通の要求と異なる要求を分けることです。CBTCはATP機能がメインなので事業者が異なっても大きな目的は変わらないはずです。

つづく